英語の授業中、外国語指導助手(ALT)と日本人教員が言葉を交わさない――。ALTを業者への業務委託(請負)で確保する自治体で、奇妙な授業風景が繰り広げられている。2人が協力して授業に取り組むと「偽装請負」(労働者派遣法違反)となってしまうからだ。ルールを守れずに労働局から指導を受ける教育委員会が相次ぎ、教室で混乱が起きている。
「先生、英語ばっかりでわからへん」。関西のある小学校。子どもたちが教室の端で待機していた担任の方を振り返って騒ぎ出した。女性指導助手は早口の英語で授業を始めた。日本語はほとんど理解できなかった。「日本語がわかる人が来ると思っていたので驚いた」と担任。助け舟を出したくても出せない。「先生じゃなくてALTさんに言って」と子どもに伝えたが、騒々しさは増すばかり。ルール違反を承知で、通訳して一緒に授業を進めるしかなかった。
「授業中に口ははさめません」「レッスンプランの打ち合わせはできません」――。
労働局から4月に偽装請負の是正指導を受け、外国人講師の授業が7月初旬までストップした千葉県柏市。授業再開前に各校からの質問が殺到し、市教委が作った一問一答集の項目は100を超えた。業務委託が適法かどうかの分かれ目は、教員が指揮命令しないこと。講師の授業に問題があっても直接言わず、業者から改善指導してもらうように、との注意が繰り返される。
指導助手の契約は(1)自治体(教委)の直接雇用(2)労働者派遣(3)業者への業務委託の3通り。一定の教委はコストの抑制や人材の安定確保などのため(3)を選ぶ。業務委託の場合は法律上、教員と打ち合わせをしたり、指導助手に指示したりすることができない。だがルールを守らず、労働局から偽装請負の指摘を受ける教委が続出していた。
文部科学省は昨年8月、各都道府県・指定市教委に、ALTが教員を補助する一般的なチームティーチング(TT)は請負ではできない、と通知。問題があれば契約を見直すよう求めた。
文科省の調査によると、2009年度に業務委託を採用していたのは670教委(ALT配置自治体の37.7%)。ところが、通知後も多くの教委が見直していない。10年度も4月1日時点で618教委(同35.4%)が業務委託を続けていた。09年度調査では459教委が「契約見直しの予定はない」と答えている。
文科省国際教育課は「文科省としては、担任と指導助手が打ち合わせをしたり、担任から指示をしたりできるほうが語学教育上は望ましいと考えている。しかし学校教育関係法令で業務委託を禁ずる規定はない。労働局の指導を受けたのは残念であり、昨年の通知にそって適正な実施、契約の見直しを指導したい」としている。
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