目の前にALT(外国語指導助手)がいても、教諭は授業の打ち合わせができない。授業中の指示も禁止。すべてALTを派遣している請負業者とファクスなどを使ったやりとりでしか伝えられない--。
こんな首をかしげたくなるような光景が多くの小学校英語の現場で見られる。福岡県のある市教委担当者がその理由を明かした。「『偽装請負』になるからです」英語を母国語とするALTを採用するのは自治体。契約形態は主に「直接雇用」「派遣」「業務委託(請負)」の三つ。このうち派遣請負業者への「業務委託」で派遣されたALTとは雇用関係にないため学校側が指導したり、打ち合わせすると労働者派遣法違反になる。これが「偽装請負」だ。
今年4月、千葉県柏市でALT(23人)の活用実態が「偽装請負」だとして、市教委が厚生労働省千葉労働局から是正指導を受けた。授業後ALTと反省会を開いたり、授業中に「声を大きく」などと指示したことなどが違法と判断された。このため新年度早々、ALTを配置できない事態に陥った。
文部科学省の09年度調査によると、業務委託はALTを活用している1792都道府県・市町村教委の約4割に当たる670教委。うち459教委は「見直しの予定はない」と回答した。
なぜ不便な業務委託を続けるのか。小中学校で計3人のALTを活用している福岡県大牟田市教委は「費用と人材確保の問題」を挙げる。直接雇用より人件費は約200万円安い。指導のノウハウを持つALTを自前で見つけるのは容易ではない。とはいえ、担当者の胸中は複雑だ。「もちろん教員とALTが直接話ができた方がいいと思います……」
「授業の実施に当たってはネイティブ・スピーカーの活用に努める」。新学習指導要領はALTの活用を薦めているが、環境はまだ整ってはいない。今年3月、福岡県内のALTらが県教委に、直接雇用など労働条件の改善を求める要請をした。中央教育審議会外国語専門部会委員を務めた「NPO教育支援協会」の吉田博彦・代表理事は「現在のALTの活用実態は無理がある。法整備が必要ではないか」と指摘した。
11年度から新学習指導要領が実施され、小学5、6年生で外国語活動(英語)が必修化される。週1コマで年間35時間。長年課題となってきた「英語が使える日本人」は期待できるのか。前倒しで始まっている現場を通して現状と課題を追った。
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